『自由を手にするその日まで』完成披露上映会トークショー 後編

 

―『自由を手にするその日まで』トークショー 後編 ―

天野監督 では、島田先輩役の鵜飼さんお願いします。


鵜飼祥己さん(島田先輩役)
職場のシーン。一会社員として共感できる部分がいっぱいありまして、動けなくなるくらいの怒号を浴びる現場だったので、やっているときはすごく辛かったです。
(島田先輩が)実際生きる上では、プライベートは楽しんでいるじゃないかな?と見えるような表現を目指しました。
普段は岐阜で舞台を中心に活動しています。映画に出演するのが初めてだったので、選んでいただいた天野監督や出演者の皆さんに感謝です。本当に貴重な経験となりました。

天野監督 本作の機材費抜きのトータル予算は60万円しかかかっていません。
上京して2年目にこの作品にとりかかりましたが、1年目でノーコネクションだったときから、絶対映画を撮るぞ!映画を撮るぞ!と思い続けていて、ひそかにオーケストラの楽譜をずっと書き続けていました。
曲が全部で9曲たまって楽団の方に演奏してもらって、先に曲を作って脚本ができた状態でこのシーンでこの曲を流してオーディションをしたら皆さんイメージしやすいんじゃないかという戦略でした。
職場シーンは、3日で30シーンの撮影を行いました。
スタッフが多いと恐らく現場は混乱するだろうということで、僕が音声を持ちつつディレクションをして、もう一人がカメラを持つという二人の体制でした。
そういったバタバタの中で鵜飼さんは、岐阜から怒られに来られて(笑)(3週毎日曜日に撮影を行なったので)段々と痩せていってしまって(笑)順撮りじゃなかったので、編集で顔の大きさが違ってました(笑)

天野監督 はい、では吉村さんお願いします。

吉村きりをさん(松田主任役)
私、普段は怒らないんですよ。全然怒らない人なんですけど、演じた役は自分の性格とは対極でした。
最近すごく忙しくて、今、私の中の”松田役の気持ち”がフツフツと(笑)人間て余裕がなくなると、どうなっちゃうかわかんないなと、実感しています。
松田役は裏設定として、女子力高くて、劇中で高校の年下の男の子の話をしていたり、一人だけ手作り弁当食べていたりするんです。
年齢を重ねるにつれて職場でのキャリアもそうですし、女としてとか、いろんなプレッシャーに戦って、彼女は余裕の無い職場の中で戦っているんだなぁと。
そこで、イライラを”彼女”にぶつけていくわけなんですけど、”彼女”だからというのではなくて、こんなに自分は頑張っているのに…という松田自身の苦しみがでちゃったんじゃないかと思っています。

天野監督 職場シーンでは、登場キャラクターには、各々それぞれ家庭やプライベートがあったりするんですが、そういった描写を脚本で書いてアプローチするのはベタだと思ったので、プライベートな描写は排除して、職場の顔だけを作って、彼女の主観映像的にしたかったんです。
ただ出演者の皆さんが素敵な方ばかりだったので、行間は冷たいことしか書いていないけれども、どこかで人間力があふれ出てくるのじゃないかと、それが吉村さんの言っていた女子力の部分であったり、どこか同情できる部分が出ていたら、つくり手として嬉しいです、

天野監督 では工藤さんお願いします。

工藤杏子さん(野中先輩役)
ガミガミ言って、あんな人いるかな?みたいな役だったんですけど、いい経験になりました。。
職場シーンでヒロインをいじめる役はみんなそうなんですけど、フトした瞬間にどこかで聞いたことがある、自分も言われたことがある、そういった要素がいっぱい集まったシーンだなと。
世の中の散りばめられた色々なストレスのかけらが集まって、あの職場シーンみたいな感じで演じました。
撮影で印象に残ったのは、監督が一つ一つ情熱を注いで、小さな小道具一つも手作りですよね?

天野監督 (登場する)カルテも自宅でプリントアプトしました。サーモグラフィーや、箱も手作りです。
工藤さんが出演する職場シーンは6、7回、取り直しをしましたね。
通しで別角度でしゃべっていない人も、お芝居をしてもらって、カット割りせず、通しで撮影が行なわれました。
主人公以外の役設定のつくり込みを甘いものにしたくなかったので、それぞれに個性を持たせたかったんです。
だから松田主任の怒り方は、野中先輩の怒り方は違うし、細部のサイドストーリーまで楽しんでつくり上げることに心がけました。

~野中というキャラクターについて天野監督解説を挟んで~

では、庄さん。


庄大地さん(復讐代行業者 土田役)
クランクインの撮影現場はトイレでした。トイレにこもって3時間半くらい。
空気が悪いし、窓が開けられなくて大変でした。
しかもカビが生えたような汚物が残っていて、流せなくてニオイに耐えながら。

天野監督 あのシーンはスタッフ一人で撮りました。狭すぎて入れなかったので(笑)

庄さん(狭すぎて)何が行なわれているのかわからないような状況で終わったので、出来上がったのを観て考えさせられました(笑)良い経験させてもらいました。

天野監督 はい、では真柳さんお願いします。


真柳美苗さん 転職エージェント役 
映画上では”彼女”を追い詰める役どころ。言っていることは全部正論なので、正論をやろうとツラツラやったんですけど
受けのみやびさんの表情が良くて、だんだん気持ちよくなってしまって…、なんだかいじめっこの気持ちがわかってしまって怖かったっていうのがあります。
皆さん、いじめは良くないですよ。

天野監督 転職エージェントとのシーンは、空間把握を認識させる引きのショットをできるだけ排除して、顔のアップを多めにしました。主人公が追い込まれていくというのを、より再現したかったんです。


 

◆質疑応答 

ー 真実に基づいたのはどのシーンですか?

天野監督 二年前に不妊治療のクリニックで勤務していて、同期の男性社員がいて、その方の睾丸の温度をある日突然院長が測りたいと言い出しはじめて、それを女性社員に測らせたのは、事実です。
あと一つ上の先輩で、仕事を覚えるのが遅い方がいて、みんなからいじめられていて、ミーティングでメモを渡されて、「私は仕事ができない人間です、皆様に迷惑をかけて申し訳ないです」というのを読まされて、誰も止めない、誰一人違和感を感じない、それにものすごく怒りを感じて、絶対敵をとってやると思ってそれで映画にしました。
本編に登場する”彼”に関しては架空です(笑)。

ー 製作費はいくらですか?

天野監督 機材費が30万くらいなので、製作費は全部で90万くらいです。
スピード感を重視するために、監督と役者の間に階層を用意しなかったんです。
直線的に意見を取り入れたかったし、取り入れたかったから。
階層を入れないことによって伝達のスピードを早くしたかったということと、人が増えると人件費が発生してしまう。
結局それは作品のクオリティに影響はしてしまうんですけど、限られた予算の中で取捨選択を考えたときに、個性を切り取りたかったから。
スタッフでガチガチに固めた中で、ものすごい待ち時間の中でお芝居をしていただくよりかは、パッと演じてもらって切り取るという少人数体制にしたかったという意図もあります。

ー 血糊の量はどれくらいですか?

天野監督 測ってませんが、大きめなバケツ三杯分以上。かなりの量の食紅を購入しました。
大森駅周辺の赤い食紅は、ほぼ全て買占めたんじゃないかと思います(笑)

(取材・2017年4月9日/UPLINK FACTORY スクリーン1)

◆『自由を手にするその日まで』トークショー 前編 ◆


 

上映情報

『自由を手にするその日まで』上映情報
会場 M’s cantina (エムズカンティーナ)
住所 世田谷区上馬4-4-8 2F(駒沢大学駅西口 徒歩1分

20107年5月7日(日) ~1990年生まれ監督特集~
13:00~ Aプログラム: 石橋夕帆監督『ぼくらのさいご』、『atmosphere』
14:50~ Bプログラム: 藤村明世監督『彼は月へ行った』、小川修平監督『さりげない人々』
16:35~ Cプログラム: 中山剛平監督『したさきのさき』、宗俊宏監督『CAMEO’n me』
18:30~ Dプログラム: 天野友二朗監督『自由を手にするその日まで』

各プログラムごと監督のトークショーあり
「自由を手にするその日まで」上映時には出演者も登壇予定。
※各プログラム1500円、通し券1800円 (共にドリンク代別)

 

 

 

CAST/STAFF/SPEC
キャスト:みやび、宮内杏子、
広瀬慎一、庄大地、藤村忠生、小野孝弘、吉村きりを、水津亜子、藤井美玲、
工藤杏子、木村梨乃、鵜飼祥己、滝けい子、藤田慎太郎、藤原絵里、一高由佳、
上田うた、見里瑞穂、真柳美苗、保土田智之、佐々木勝己、井坂優介、天野友二朗、
冨田智
監督・脚本: 天野友二朗
作曲: 天野友二朗
演奏: 新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団、渡辺裕太、吹野クワガタ、加藤裕一
特殊造型協力: ソイチウム、はきだめ造型2016年/日本/112分/サスペンス
映画『自由を手にするその日まで』公式twitter